子をおもう親牛の執念
(赤泊村大杉)


赤岩地区の海岸を「たたずの浜」といっている。むかしこの浜に小さい村があって、そこの子持ち牛が、子を残したまま赤泊港から他国へ積み出された。
そのころ、佐渡の牛を他国へ売るには赤泊の港から百石積みくらいの「押切船」という小船に乗せて寺泊へ渡ったものである。そしてこの牛船は、寺泊海岸近くになると、船の上から牛を海へ突き落とし、海岸に張ってある黒い幕を目当てに泳がせて上陸させた。
この子持ち牛は、海へ落とされたが、みな陸を目かけて泳いでいるのに、反対の佐渡の方へ向かって泳ぎ出した。
子を思う一念はおそろしいもので、ついに海を渡って赤泊の海岸へ着いた。その時すでに白い骨ばかりの姿になっていたが、それでも一声「もう」と啼いたといわれている。
それから、この子持ち牛を出した村は、その祟りで滅びてしまった。その村のあったあとが、今の「たたずの浜」だということである。

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