鉱脈を教えた稲荷さん
(相川町大工町)


相川町大工町の稲荷神社は「関東稲荷」といい、ここで打つ太鼓の音は、雨だれのような音がするといわれている。
むかし、弥右衛門という山師が、多くの一族を連れて、相川町金山を掘りに来た。
しかし、いくら掘ってもよい鉱脈にあたらなかった。こういう時、相川町金山の山師たちは、狢(むじな)の神さんに頼み、よい鉱脈のあるところを教えてもらうことにしていた。
しかし、この弥右衛門は、狐の神さん稲荷神社の信者であった。
弥右衛門は、この稲荷大明神に、いっしんにお願いをした。
ある日、坑内でウトウト眠っていると、トントコロン、トントコロンと、雨だれの音とも、能の鼓ともつかぬ音が聞こえてきた。
能の好きな弥右衛門は、その音のする坑(あな)の出口の方へ出てみた。すると、ひどいどしゃ降りの雨の中で、一人の翁の面(おもて)をつけた者が舞っていた。
こんな時、こんな姿であらわれるとは、きっと日ごろ信心している稲荷大明神であろうと弥右衛門は思った。
そして、そのあとをついて行くと、手招きをして、ここを掘れというようなかたちをしたかと思うと、ふっと消えてしまった。
さっそく、弥右衛門は間歩(まぶ)受けをして掘ってみると、よい鉱脈であった。
よろこんだ弥右衛門は、社を建てて、この翁の霊をまつった。
落成の日は雨になった。
弥右衛門は、能衣装をつけて「翁」を舞った。
そのうち、雨がやむと、雨だれの音が、鼓の音にまじって聞こえた。
それから、この稲荷神社の打つ太鼓には雨だれの音と鼓の音がするようになった。

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